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「はっ・・・面目次第もありませぬ。但し、相手方よりこれを『主』に渡せと」
善吉はそう言って懐から一通の文を取りだし差出すと友春は興味深く目を通した。
【治部大輔 後顧の憂いを絶たんと欲す 遅からず上洛せしむ】
とだけ書かれていた。治部大輔(従四位下)とは駿河の今川義元の官名である。
その今川義元が東である北条家と北である武田家との三国同盟をさらに強固なモノとして近々上洛の軍を起こすというのである。
「むぅ~」
友春は唸った。今川義元が上洛するのは歴史通りである為、その事自体については友春に動揺は無かったし、清州の町にも時折今川方尾張侵攻の噂は起こっていた為、いつか本当に来るかもしれないという淡い予感は織田勢には広がっていた。
友春の懸念は誰が、何の為に、自分にこの事を知らせたか?である。
(罠かも知れんが、本当だとしたら今川方に近い者であって疎ましく思っている者だな・・・)
「善吉っ、伊賀者だと、何をしておったのじゃ」
友春の思案をよそに新吉の怒りは再び盛り返し善吉を攻めていた。
(伊賀者って言ったな・・・はっ、伊賀者だと!!)
「伊賀者じゃ!」
友春は立ち上がって新吉と善吉のやり取りを一切無視してそう叫ぶと二人は黙って友春を見上げた。
「殿?」
「殿、如何なされました。何かお気づきか?」
善吉と新吉が思わず質問した。
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