不可解な男

2/20
前へ
/33ページ
次へ
灰色の重たげな雲が、空に凹凸を作っている。 街路樹には木枯らしが鳴り、その枝には僅かに残った枯れ葉が、しがみつくようにしてばたばたとはためいている。 大通りを歩く人の数もめっきり少なくなり、見かける人間たちは皆が、上着の襟やマフラーなどで顔を隠すようにして歩いている。 レンガの敷き詰められた道はとても冷えていて、草むらや土の上と比べると、足の裏がピリピリするほどだった。 頭上からは、白くてふわふわしたものが降ってきて、彼の黒い体を白くしていく。 彼には、それが面白くなかった。 俺は黒い自分を誇りに思っている。 どんなに罵声を浴びせられようが、何度人間に追い回されようが、それは変わらない。 だから、白くなんてしないでくれ。 幾ばくかの強がりは含んでいるのかもしれない。 でもそれは、紛れもない彼の切実な思いだった。 生まれてからずっと、飢えに苦しんだ時も、野良猫たちから自分の寝床を勝ち取った時も。 そして、悪魔の使いと呼ばれたあの時も、この体で生きてきたのだから。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加