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彼は以来、己の黒を誇り、孤独を抱き抱えて生きている。
金色の瞳に写るのは、灰色の景色ばかり。
今日だってそうだ。
大通りに行き交う、途方もない数の人間たちを冷ややかにかわし、時折不躾に投げつけられる視線にわざと答えるように、その折れた尻尾を掲げる。
そうすると、人間たちは皆怯えるようにして彼に暴言を吐き、ある者は顔を青ざめさせて足早に立ち去り、ある者は手に持った杖や傘や棒きれなどを振りまわし、彼を追いかけたりした。
心底うんざりして、寝床へ帰ろうとした、その時。
ヒュッという微かな音がしたかと思うと、左前足をかすめ、石が道を跳ねた。
続けてひとつ、ふたつと石が飛んできた。
彼はしなやかにそれを避け、すぐ側にあった果物屋の木箱に飛び乗り、毛を逆立てた。
石が飛んできた方へ視線を辿ると、レンガ色のキャスケット帽に、同じ色のベストを着た、10歳ほどの子供が走り去っていくのが見えた。
後ろから石を投げるなんて…なんて卑怯な連中なんだ。
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