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「なんだ、寝てんの? 僕のとこにきといて、これまた緊張感のない娘だね~。挨拶ついでにキスでもしとくか」
青い瞳をした男は、そら恐ろしいほど整った小顔を傾けて、カウチに寝そべる日本人をのぞきこんでいた。
「ん……先輩…」
「先輩?」
男がいぶかしがりながらも唇を近づけた時、背後から地響きが近づいてきた。
「Нельзя――!!」
「Шура…」
「Нельзя ей kiss!!」
あんまり大きな声だったので、バンビはとび起きた。
右にはあいかわらず恰幅の良いシューラが慌てた様子で何かを指差していて、寝ぼけ眼をこすりながらその指の先、自分の左隣を見た。
「……!」
体は大きいのになんだかちょこんと座ってニコニコしている。
「び……美形……」
そうとしか言い様がない。きめ細かい白肌に透きとおるような青い瞳、目にかかるかかからないかの髪は見事なブロンド。まるでおとぎ話の王子様が絵本から出てきたようだ。王子はそれはそれは爽やかな微笑みをたたえて言った。
「Давай ебать!」
―――― ゴン!
王子のおでこにシューラの顔ほどもあるマトリョーシカが吹っ飛んできた。
「Ай…!」
嫌でもはっきり目が覚める。
バンビが「うわぁ~…」と情けない声をあげると同時に、めずらしくプリプリ怒った様子のシューラがまた大声で言う。
「Дурак! Пошел!」
たしなめられたのか、王子は小さなため息をつくと、バンビに何やらロシア語でぶつくさ言って部屋から出ていってしまった。
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