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「わぁ~っ!」
アットホームなダイニングのテーブルに並んだ料理の旨そうなこと。
早速やってきたホームシックも去っていくほどキラキラしている。
カウンターキッチンの向こう側にはシューラの愛妻ダリアさんがニコニコしながら大鍋からボルシチを注いでいる。あまりにも食欲をそそる芳香なもので、バンビのお腹の虫が急にぐぅぐぅ騒ぎだした。
「すごい! 美味しそ~!」
「タクサン 召シ上ガリヤガレ~!」
ダリアはおたまをもったまま胸をひろげた。
「いただきます!」
バンビは出された料理ひとつひとつに感動しながら食べた。外は氷点下でも、アパートも胃の中もポカポカで幸せな気持ちになる。
そんなバンビの表情を見て、夫妻は時折目を見合わせては微笑みあった。慣れているとは言え、自分たちの日常に初めて日本人を預かるほうもドキドキである。
お腹が満たされてきてから気づいたが、ダリアはかなり面白い女性である。
日本にいる頃からシューラに話を聞いていたせいかもともと親近感をもっていたが、実際に会って話してみると、バンビは非常に彼女を気に入ってしまった。
バンビが、高真のスパルタ教育もむなしく、まだまだ不慣れな英語とロシア語で会話をすると、時々修正をしながら一生懸命に聞いている。
日本から女の子がやってくると聞いて、市内の日本語サークルに通っていたという語学力はなかなかのものだ。
シューラと同じ。
人が好きなのだ。
バンビのどんな小さな話にも興味があって、大きな目を輝かせてくれるものだから、その晩は嬉しくなってたくさん話をした。
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