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翌朝、シューラはコーチの仕事があるため早くにアパートを出た。ダリアも昨日のうちから、明日は料理上手な友人に新しいレシピを教えてもらいにいくと興奮気味だったので、主不在の今日は気兼ねもなくゆっくりできるなぁとバンビは眠る前に思っていた。
一度寝つくと、頭も体も重だるくてなかなか起き上がれない。
バンビはとろとろと眠り続けていた。
――カチャリ
誰かがダイニングから廊下に出てきた。
リックだ。
彼はもう3年もここに出入りしているため、アパートの中も周知していて、今朝も戸棚から好物のシリアルやドライフルーツを勝手に出して食べたくらいだ。
「あ~…今日は大幅に遅刻だな。またシューラにどやされる…」
いつもは開け放してあった角部屋のドアが閉まっているのを見て、バンビのことを思い出した。
左上を見てちょっとだけ考えてから、ぬき足さし足してノブをまわす。
「おじゃましま~す…」
囁いて中に入ると、部屋の隅にはまだ手つかずのトランクやバッグが積まれている。ダリアが用意した白い猫足の丸テーブルの上には飛行機のチケットや大学の書類、手帳にパスケース、細々としたものが無造作に置かれていた。
「……?」
リックは手帳に何かが挟まっているのを見つけて、フェアじゃないなと思いながらも誘惑に勝てず、人差し指で引っ張ってみた。
「ゲッ……」
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