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窓の外はまだ暗い。
まるで真夜中に目が覚めて、そのまま妙に冴えてしまったような、変な感覚だ。
2人はリビングに集まって、リックがどこかから持ってきたスナックをつまみながら過ごした。
「えっと…」
バンビは詰めこみの知識と、紙とペンと携帯の機能をフルに駆使して、リックとコミュニケーションをとろうと努めている。
自分のスケートの話や振付けの話から、このあたりはアパートが一般的で戸建てはないこと、シューラがこの時期は冷蔵庫を使わずアパートの外に食料を保管している話など、片言ながら色々話せてバンビはホクホクだ。
昨日もそうだが、誰かと話している間はホームシックがまぎれる。
ブランチの時間になり、ようやく朝日が上り始めたのに気づいて、バンビは食事と温かいお茶をとるためキッチンに向かった。ダリアはバンビにはちゃんと1人分の食事をセットしてくれていて、しかも目玉焼きの隣にソイソース、つまり醤油の小瓶までつけておいてくれた。
「お、お醤油だぁ~…ダリアさん天使……!」
たった1日でもう日本が懐かしく、思わず瓶に頬擦りしてしまう。
ところでリックのほうはというと、バンビの必死な様子をニコニコ王子様然として見守っていて、ちょっと対称的なのだ。
初日にシューラが大慌てで言ったことなど何かの間違いだったのかな。と思うくらい、彼は人畜無害な空気をぷんぷん漂わせていたのでなんとなく安心していた。
「さて…と。そういえば、リックさんは私に何か聞きたいことはありますか? えっと、たとえば日本のこととか…」
「koma Каков ваш любовник?」
バンビの言い終わらないうちだった。
「え? “こうま”って言った?」
リックはカウチの肘掛けに頬杖をついたままあいかわらずニコニコしていて、「調べてよ。」と言いたげに辞書を指差した。
発音も曖昧なため何度も確認しながら導くと、どうやら「君は高真の恋人なのか?」。
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