第1章

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「お待たせしました」 「お どうも」 コーヒーの入ったカップを置き 木製のオボンを脇の間に挟みカウンターに戻ろうと振り向く 「店員さん」 呼び止められた 営業スマイルを心がけろとマスターには言われていたが スマイルどころではなく倦怠感に満ちた顔で振り向く どうもこの分野は苦手だ 「この時間帯眠たいのも分かるけどさ まあ聞けよ あのコーヒーメーカー1つで車一台買えるらしいぜ? 店長には内緒にしとくからさ 次からはもっと丁重にしとけよ」 結構なお世話だ 三人目の男は歯茎を見せながら笑いそのアドバイスを告げる 言葉の選択に迷ったが 「すみませんでした ありがとうございます」 丁重にそう返した アドリブは苦手だが自然と返す事ができた ここにきてそれなりに経つと実感 人間の適応力はすばらしいものだ また厨房に戻り俺は時計を見て後数分で休憩時間になることを確認した 一通り容器の洗浄を済ませ休憩に備える 「では話してもらおうか」 臭い男の内の一人の太った方が言ったのが聞こえた 盗み聞きをするように 「ああ では早速」 三人目は軽くコーヒーをすすり そして始めた 聞き耳も同時に立てる 「俺はこの前の日曜か土曜かわからねえけど 近くのコンビニへ買い物へ行ったんだ あれね 某雑誌での柱木燐ちゃんの特集がしているらしくてさ ソレ買いに行ったわけよ そしたらさ 暗くてよく見えないけど黒いでかい布をバタつかせたモンがさ 俺の財布についてるチェーンを力ずくで取ろうとしてね そこで俺は『こいつはあの事件の犯人だな』って思って抵抗はしなかった その黒い気味悪い塊はよ 俺から奪い取ったチェーンを確認して そのチェーンがまるでまがい物だったかのように投げ捨ててよ 俺の方向いたんだ もうその振り返った姿がさ 殺意に満ち溢れてさ 俺は走って帰ったよ 痛いのは嫌だもん」 興奮した様子で何を言ってるか聞き取りにくいが 焦り 恐怖 それらが感じられる
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