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中に入っていた虫が逃げた。
「やばい! 怒られる」
慌てて虫を追ったが、虫は隙間の奥に逃げ込んだらしく、手の出しようがない。
血の気が引くのを感じた。
昔、誤って父親の研究用の虫を逃がしてしまったことがある。
その時は……ああ、思い出したくもない……
貴重な虫となっては、今度はお尻百叩きじゃすまないだろう。
200か……いや、300。ベルトで叩かれるかもしれない。
「い、いやだぁ……」
蹌踉として膝を付きそうになる。
うっすらと涙が滲んできた。
「い、いや! まだ時間はある」
ばっと時計を振り返る。
時刻は7時を回ったところ。家族が食事会に出かけてから、まだ30分と経っていない。
猶予は――あと1時間くらいか。多く見れば、2時間。
その間に捕まえれば問題ない。
逃がす訳にはいかない。もちろん殺す訳にはいかない。
……難しい。
成る程、これは試練だ。普段は何ひとつしちゃくれない神が、気まぐれにもアタシの人生に刺激を与えてくれたもうたのだ。
「いいよ、やってやるよ。意地悪な神様め!」
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