携帯電話は死者へのホットライン

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「駅についたぞ」 イズミは駅についても、何も言わない樋口に促した。 しかしまだ樋口は口を開かない。 イズミは樋口が話し出すのを待った。 ホームで一番遠いところまで行った。 周囲には誰もいない。 線路を眺めながら、ようやく樋口は言った。 「俺、振られました」 樋口は無理して言ったのだろう、泣き笑いの表情をしている。 そこに電車が来たが、車両が短かったので、とても遠いところで停車した。 二人は乗らず、ホームに立ったままだった。 「理由はなんだって?」 「俺といると、怖い目に遭うからって。不良達はもう大丈夫だから、考え直してくれって、暫く説得したんですが、もう遅いと言われて駄目でした」 「それは仕方ないかもな」 その理由に、誰も反論できないだろう。 「アニキも梁瀬さんと別れたんですよね」 「その通り。同じだな」 「でもアニキはやっぱり違う。彼女がいなくても女に不自由してなさそうだもの。いいなあ。俺もあんな風に囲まれてみたいものです」 樋口は無理して笑った。 「元気出せ。俺なんか同じ女に二度も振られた。去っていく後姿はデジャブかと思ったよ。それに比べればお前はまだマシだ。それに大勢いても、それなりに気を遣って大変だぞ」 イズミの軽口を聞いた樋口は、元気づけようと言ってくれている事を、有難いと思った。 樋口と電車に乗り、イズミは塾へ行く為に最寄り駅で降りた。 降り際に見た樋口は、肩をすぼめ、背中を丸めて、消えてしまいそうなほど小さく見えた。
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