431人が本棚に入れています
本棚に追加
集中して物書きをしていた少女が動いたのは、しばらく経ってからだった。
「…終わった。疲れた…」
「女がそのような格好をするな。だらしない」
座りっぱなしで疲れたのだろうが、畳に仰向けに寝そべるのは如何なものか。
注意を受けた少女は寝転がったまま子供のように口を尖らせ、「わらしだってやってるでしょ」と言い返してきた。
…この国は今どうなっているんだ。
作法を教える者がいないのか。
眉間に力が入るが、それを緩める気は無い。
「いよっこらしょ」
「婆か」
のろのろと身体を起こした少女はへらりと笑う。
その肩越しに少女が何やら書いていた冊子が見えた。
「長々と何をやっていた」
「宿題」
「しゅく…?」
「うん。やらないと師範に怒られるんだよね」
「……まさか、手習塾にでも通っているのか?」
いや、まさか。
だとしたら先ずは作法や茶の湯から教わる筈。
贔屓目に見ても、この少女がそういった教育を受けているとは微塵も思えん。
「うん、そうだよ」
「……」
自分の口がだらしなく開くのを感じた。
世も末だ、とはこういう時に使う言葉なんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!