十三夜月の章

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  集中して物書きをしていた少女が動いたのは、しばらく経ってからだった。 「…終わった。疲れた…」 「女がそのような格好をするな。だらしない」 座りっぱなしで疲れたのだろうが、畳に仰向けに寝そべるのは如何なものか。 注意を受けた少女は寝転がったまま子供のように口を尖らせ、「わらしだってやってるでしょ」と言い返してきた。 …この国は今どうなっているんだ。 作法を教える者がいないのか。 眉間に力が入るが、それを緩める気は無い。 「いよっこらしょ」 「婆か」 のろのろと身体を起こした少女はへらりと笑う。 その肩越しに少女が何やら書いていた冊子が見えた。 「長々と何をやっていた」 「宿題」 「しゅく…?」 「うん。やらないと師範に怒られるんだよね」 「……まさか、手習塾にでも通っているのか?」 いや、まさか。 だとしたら先ずは作法や茶の湯から教わる筈。 贔屓目に見ても、この少女がそういった教育を受けているとは微塵も思えん。 「うん、そうだよ」 「……」 自分の口がだらしなく開くのを感じた。 世も末だ、とはこういう時に使う言葉なんだろう。  
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