十三夜月の章

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  己の耳を疑う。 だが、聞き返したくない。 聞き返せばまた面倒な事になるとわかっているからだ。 だが。 「ね、いいでしょ?決まりね!」 「………」 「ねぇ、何が必要?おじさんに言って用意してもらわなきゃ!茶碗と、茶筅と…?ああ、さっぱりわからない」 「…ちょっと待て」 「そしたらちゃんと着物で来なくちゃね。実はちょっと憧れてたんだ、お茶点てるのって!」 「待て…!」 「へ?」 声を荒げた俺に少女は呆けた顔を向けた。 …このように声を張るなど、何時振りであろうか。 声を出す事は、これほどまでに疲労を誘うものだったか。 「言っておくが、教えるつもりは毛頭無い」 「えぇっ…!」 「ついでに言うと、点てた茶が飲みたい訳でも無い」 肩までの髪の少女は眉を寄せ、言葉の意味を探っているようだった。 「普段俺に出している茶をまともに出せるようになれ」 「普段って…煎茶のこと?」 「そうだ」 少女は幾度か瞬きをすると、手元の盆に目を落とした。 「この際、作法はどうでも良い。ただ、煎茶にも淹れ方がある事を覚えろ」 「へぇ…」 少女は感嘆すると、意欲と好奇心に満ちた人間特有の強い瞳を俺に向けた。  
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