十三夜月の章

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  「わらしってお茶と作法にはうるさ…口を挟んでくるよね。他は何も言わないのに」 煩い、と出かかった言葉を誤魔化すように少女は口早に続けた。 「わらしこそ、そういう教育を受けていた事があるの?」 「気ままに生きる座敷童が教育などされてたまるか」 「…気ままに?」 繰り返す少女の声は不安げに揺れていた。 目が合えば、眉を少し下げて唇を引き締める。 少女の言いたい事は直ぐ伝わった。 「俺が此処でこうして居る事も自分の意思だ。これ程気ままな事があるか。お前が案ずるような事は何も無い」 「………うん」 頷いてはみたものの、到底納得出来ないといった様子で少女は俯いた。 童子のように短くも艶のある髪が少女の表情を隠す。 …この少女は無駄な感情を持ち過ぎている。 「…茶の湯に詳しい奴の元に居たことがある」 気付けばそう口にしていた。 思った通り少女は顔を上げ「え?」と聞き返してきた。 「兎に角作法に煩かったが、それ以上に茶にこだわった」 「……」 「俺もお前にそうしていると言うことは、其奴の考えが俺の中に残っておるのだろうな」 空の湯呑みを目の高さに持ち上げると、丁寧に茶を淹れる男の穏やかな横顔が目に浮かんだ。  
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