序章

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  一年後。 将軍に謁見が許された男は、御目見得の士として旗本として認められた。 男の家は金で溢れていた。 「お前が来てからこの家は急速に栄えた。福の神であったか」 男は一気に杯を煽ると、上機嫌で女に差し出した。 「嫌ですわ。そんなことありません。貴方様の努力の賜です」 着飾った女はたおやかに杯に酒を注ぐ。 女は決して若いとは言えなかったが、この一年でみるみる美しくなっていった。 それは暗に、着飾ったり化粧を施している所為ではない。 内面から弾けるような美しさが溢れ出しているのだ。 男は月に照らされて妖艶さを引き立てられた美しい女を見て、ごくりと喉を鳴らした。 自分の手を細く美しい女の手に重ねると、潤んだ瞳とゆっくり視線が絡まった。 その瞳の色香に、男は目眩がした。 「かあさま。寝よう」 童子が奥の部屋から眠そうな顔を出した。 「…先に布団に入っていなさい。もう少ししたら、行くから…」 女は童子を見ないまま、男の手を包み込むようにそっと握った。 その日、童子は独りぼっちで朝まで眠った。  
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