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数年後。
「かあさま」
「何度言ったらわかるの。母上と呼びなさいと言っているでしょう!」
女は職人に髪を結わせながら、横目で童子を睨んだ。
それでも童子は無表情で女の横に立つ。
「今日は一緒に寝られるの?」
毎日聞かされる言葉に、女は苛立ちを隠せない。
ついに手元にあった手鏡を童子に投げつけた。
「もう一人で眠れるでしょう!?いいから、あっちへ行きなさい!」
童子は当たって落ちた手鏡を拾うと、そのまま音もなく立ち去った。
髪が結い終わると、早速男と付き人と共に町へと繰り出す。
気に入った物があれば、片っ端から求めては付き人に持たせた。
「出てくるのは一人か二人であろうに、何枚産着を買えば気が済むんだ」
男が笑いながら店で出された茶を啜る。
「だって、待望の赤ちゃんですもの。出来る限りのことはしてあげたいわ」
女はかつて童子に向けた母親の眼差しを、自らの目立つ腹に注いだ。
男も嬉しそうに女の腹を撫でた。
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