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翌月、男は遠縁の伝手で奉公先を見つけてきた。
遠い、遠い場所だった。
「お前は明日から其方へ奉公に出るのです。本来ならばお前のような者が足を踏み入れることが出来ぬ場所。お話しをつけてくだすった旦那様に感謝なさい」
女が立ったまま童子に言うと、童子はいつもの如く無表情で女を見上げた。
「かあさまは?」
「かあさま、と呼ぶのはよしなさいと言った筈です。…まあ、もう過ぎた話。お前の親は、奉公先の方々になるのだから。今後ここを、お前の家だと思わぬように」
「かあさまと離れるの?もう、いらなくなった?」
尚も見据える色のない瞳に、女は心底震えた。
何も言えないでいると、童子が女の腹に手を置こうとしていて、我に返った女は慌てて童子の手を振り払った。
「触るでない!汚らわしい!この子までおかしくなったらどうしてくれる…!」
「かあさま」
「ヒッ…!」
ひたり、と童子の足音が座敷に響いた。
見上げる真っ黒な瞳は、まるで闇夜のようだ。
美しい顔は、女にはからくり人形のように見えた。
からくり人形の口が、動く。
「今日は一緒に寝られるの?」
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