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女はとうとう尻餅をついた。
「だ…誰か…!」
震える気管に力を入れ、やっとのことで声を出すと、慌ただしい足音をたてながら使用人が来た。
「奥様!いかがされました!」
「あぁ…、たす、助けて。私を、部屋に連れて行っておくれ」
女は這いながら使用人にすがりつく。
その身体は尋常ではないほど恐怖に震えていた。
両脇を抱えられながら去っていく女の後ろ姿を、童子はじっと見つめていた。
「かあさま」
高揚のない声は、広い座敷に吸い込まれていった。
翌日。
誰に見送られる事無く、童子は屋敷を出た。
藍色の薄い着物に裸足。
持ち物は何一つ無く。
出会った頃の姿のまま、童子は屋敷から消え去った。
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