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女は知らなかった。
宴の後、完全に火種を消してなかった事。
厨にない筈の半紙が近くに置かれていた事。
買い溜めした油を蔵に仕舞ってなかった事。
微かに開いた扉から風が吹き込んだ事。
半紙が舞い上がり、火の側に落ちた事。
全ては偶然の出来事。
偶然に偶然が重なり、男の屋敷は業火に包まれた。
「…だれ、か…」
朦朧とする意識の中、女は腹に手を当てながら燃え盛る座敷を見つめた。
沢山の着物が仕舞われた箪笥も、気に入りの化粧台も。
全てが朱一色に染められた。
ここが地獄と言われれば、納得するかもしれない。
その時。
朱以外の色が視界の中で揺れた。
それは藍色だった。
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