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藍色の着物は、朱の中で良く映えた。
相変わらず感情のない瞳は、灼熱地獄の中で一際目立つ。
綺麗な顔は火傷一つ無く。
熱風がその頬を掠めても、漆黒の髪を涼しげに揺らすだけだった。
手には、いつか童子に投げつけた手鏡を持っている。
その鏡にちらちらと炎が映り、童子がその手に炎を持っているようにも見えた。
――人ならざる者。
その言葉が頭の中で駆け巡る。
朦朧とする意識の中、女はずっと童子を見つめた。
童子は火を臆する素振りも見せず女の前まで来ると、無言でその小さな手を差し伸べた。
「…おま…が、火を、……」
女は既にまともに声を発する事は出来なかった。
発する事が辛くとも、言葉が次々と溢れてくる。
「……鬼、め……お前な、ど…拾うんじゃ……なかっ…」
ひゅーひゅーと熱気を吐き出しながら、女は差し出された童子の手を力一杯睨んだ。
自分の手は、身体は、こんなにも焼けただれているというのに、童子の手はまるで上質な陶器のように白い。
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