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「かあさま」
いつものように自分を呼ぶその声が憎らしい。
女は目線を童子の顔にやった。
「名前、覚えてる?」
「……?」
それだけ言うと、童子は口を閉ざした。
名前。
童子の名の事か。
そういえば、いつから呼ばなくなったのだろう。
…あぁ。
以前呼んでいた名を、呼べというのか。
ぐずぐずと焦げてゆく皮膚の臭いを感じながら童子を見る。
その感情のない瞳は、相変わらずで。
女は笑いが込み上げた。
せき込みながらも笑いを抑える事は出来ない。
…名を呼んで欲しいなど可愛い事を望むかと思えば、その表情は変わりなく――
女は、最期の力を振り絞り。
ありったけの憎悪と、侮蔑と、激昂と、拒絶を。
言葉に込めて吐き出した。
「化け物…!」
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