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そう叫んだと同時だった。
燃え盛る天井が、けたたましい音を立てながら女の頭上に落ちた。
――童子の手を取り名を呼べば、助かったのかもしれない。
やけにゆっくりと過ぎる刻の中、女はぼんやりと童子を見ていた。
童子の手から、するりと手鏡が離れた。
自分の身体に衝撃が走ると、目の前は真っ赤になった。
煌々と燃える木材の隙間から童子の顔が見えた。
それは一瞬のことだったが、女は無表情でこちらを見下ろす瞳の中に感情を探す。
しかし
感情の欠片はおろか、少しの色さえも見えぬまま。
女の視線が意識と共に下へ下へと落ちる
粉々に割れた手鏡が、最期に女の目に焼き付く
…もう苦痛も恐怖も感じない。
その後は、完全なる闇だった。
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