新月の章

2/12

431人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
  「わらし」 そう声を掛けられて、まどろみの中にあった意識を手繰り寄せる。 そっと目を開けると、ほんのりと橙色に色付いた天井が目に入った。 「わらし、寝てるの?夕御飯だよ?」 ゆるゆると視線だけ動かして声のする方を見ると、肩までの髪の少女が笑いながらこちらを見下ろしていた。 「座敷童もうたた寝なんてするんだね」 少女は楽しそうにそう言うと、俺の横で膳の用意を始めた。 「…座敷童とてうたた寝もするし、飯も食う。…おい。何だそのヒラヒラした格好は」 「可愛いでしょ。わらしは知らないだろうけど、今の流行りなの」 少女はヒラヒラを摘み、嬉しそうにくるりと回って見せる。 「流行りなど知らん。ここへ来るときは着物で来い」 「はいはい」 少女は俺の言葉を気にすることなく、茶碗に飯を盛り付ける。 「座敷童って、夢も見るの?」 「……」 そういえば、久しぶりに夢を見た気がする…。 思い出そうとしてみたが、後味が悪い夢だったからやめた。  
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

431人が本棚に入れています
本棚に追加