新月の章

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  「じゃあね…一番長く憑いていた人の話は?」 「長く…?」 そう言われて箸が止まる。 長く生きていると、遠い過去の記憶を思い返すのは一苦労だ。 「長く…といってもわからん。時の感覚が無い」 誰かと思い出話などしたこともなければ、自身で思い返す事すらしたことが無い。 そのまま伝えると、少女は箸をくわえたまま唸った。 少女は行儀が悪い。 行儀の悪さを視線で訴えていると、少女はやっと箸を離した。 …と思ったら名案とばかりに声を張り上げた。 「じゃあ、今思い返して一番記憶にある人の話!」 「一番…?」 今度は此方が唸る番だった。 手元に視線を落としながら、暫し過去に向き合う。 ちらちら、と、自身の中に記憶の破片を感じた。 それらは煌めいているものであったり、暗く澱んだものであったりと様々で。 心の中でじっと目を凝らすと、ぼんやりと男の顔が浮かんだ。  
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