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女は視線を童子の着物に移した。
藍色の薄い着物を一枚だけ。
こんな寒い日に草履も履かずに無表情で行き交う人々を眺めていた。
子供らしからぬその表情は、この世の事を全て諦めているような哀しいものに見えた。
その子を家に招いたのは、ほんの半刻ほど前。
「寒くないかい」
そう聞けば、表情を変えずに首を横に振った。
そんなはずないだろうに、でも確かに童子は寒そうな素振りを見せなかった。
こんな寒さに慣れているのかと、我が身の境遇も忘れて哀れに思い、ささやかだが食事を用意してやった。
童子は黙々とゆるい粥をすする。
女は、病気で亡くした我が子を童子に重ねて見ていた。
「名前は?」
「ない」
「…そうかい」
捨てられた子なのだ、と女は判断した。
この子の親を咎めることは出来ない。
ほとんどの家が、子供一人でも養うのは辛い時代なのだから。
「おばさんの子になるかい」
しかし女は、そう言った。
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