新月の章

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  「おおっ…!」 傷が綺麗さっぱり消えた俺の腕を高々と持ち上げ群集に見せつけると、驚愕の声がそこかしこから上がる。 刀を差した男が俺のその腕を掴んで自分の顔に寄せた。 「よ、良く見せろ!」 「小僧!痛みはないか!?」 周りの人間も固唾を飲んで俺の言葉を待っているようだった。 「痛くない」 そう言えば群集は更に湧き、我先にと秘薬に手を伸ばした。 「おおっと。困りますよ、お侍様方に奥様方。言ったでしょう、希少な薬だと。数は限られてるんでさぁ」 醜い男はさも困ったように頭頂部を撫でれば、集まった人間は顔を合わせた。 「…俺はこれだけ出すぞ!」 「まて!その倍出す!ふたつくれ!」 「ちょいとお兄さん!こっちにもおくれよ!」 「はいはい!金を存分に出せる御方は並んで下さいよ!なんてったって秘薬なんだ!金を出すのを渋ったら御利益が落ちるよ!」 笑いが止まらない醜い男があっという間に人垣に埋もれていくのを、はじき出された道端で眺めた。  
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