新月の章

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  視線を感じて顔を向けると、幼子がじっとこちらを見ていた。 「…何だ」 「兄ちゃん。本当に治ったの?」 「見ればいい」 腕を見せると、幼子は目を輝かせながらまじまじと見ていた。 「ねぇ、あの薬、高いよね?」 「物の価値など知らん」 「おとうが仕事で腕を落としたんだ。それも治る?」 「治らん」 「そっか…。腕が生えても具合が悪いのは治らないんだね」 もう一度幼子に視線をやると、幼子は人垣をじっと見つめていた。 「…具合が悪いのか」 「うん。腕を落としてからずっと寝てる。腕から腐ってきてるんだって」 「子供」 幼子を呼べば、幼子はきょとんとした顔でこちらを向いた。 「兄ちゃんだって、まだ子供じゃないか」 「俺はとうに百五十を越えた。それより、何か寄越せ」 言い方が悪かったのか、幼子は理解不能といった様子で首を傾げる。  
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