繊月の章

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  暗闇の中で雨の音が聞こえた。 時折激しく打つ雨音は風の強さも知らせる。 欠伸をひとつすると、のろのろと身体を起こした。 雨の日は身体が鉛のように重く感じる。 それは不快な音の所為か、はたまた明るく出ている筈の月を覆い隠す分厚い雲の所為か。 何百年生きていても、この感覚は好きになん。 人の気配がして、これから開くであろう襖をじっと見た。 控え目な音と共に襖が開かれ、肩までの髪の少女が顔を覗かせる。 「うわぁ、暗い。わらし、灯りくらい付けたら?」 「…別に暗かろうが構わん。それより、開ける前に声くらい掛けろ」 膳を運び入れた少女は「はいはい」と適当に返事をしながら部屋の隅にある行灯に火を入れた。 座敷がぼんやりと橙色に染まると同時に、行灯の横にいた少女の影が天井まで大きく伸びる。 それは少女の背後に山姥が忍び寄っているような、そんな光景に見えた。 少女の手元に膳が二つあるのに気付く。 「…また、此処で?」 「いいでしょ?ちゃんと着物着てきたから」 少女は膳を置くと、俺の前でくるりと回って若草色の着物を見せた。 結えるほどもない髪が舞い、それこそ童子に見える。  
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