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暗闇を覆い尽くすのは不快な湿気と激しい雨音。
跳ねた雨粒が庭に佇む俺の頬を濡らし、藍色の着物を濃紺に染めた。
暗闇の屋敷の中で、数人の足音と息遣い、それから金属同士が激しくぶつかる音がする。
「……ぐっ!」
久し振りに聞く男の、低くくぐもった声が聞こえた。
大きな影が倒れ、鉄臭い匂いが庭にも漏れてくる。
「やったか!?」
数人の男達が倒れた男の生死を確認するより先に、倒れた男はふらりと立ち上がった。
恰幅のいい男だった。
「…この程度で俺が殺せると思ったか。
見くびるな!全力で来い!」
周りを囲う男達がその覇気に息を呑む。
しかしそちらも後に引けないのか、既に血で濡れた刀を構え直した。
再び、刀を交える音が響く。
早く仕留めたい男達は、なりふり構わず向かっていく。
しかし一度倒れたはずの男は、負傷を感じさせない見事な剣捌きだった。
刀をはじき距離を取ると、恰幅の良い男はしゃんと背筋を伸ばし、「小僧!」と声を張り上げた。
恰幅の良い男と向かい合って刀を向ける男の身体が、自分の事かと一瞬強張る。
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