繊月の章

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  「小僧!来ておるか!」 その言葉は俺に向けて言ったんだろう。 返事をせずにいれば、恰幅の良い男は視線を何度か巡らせ、そしてやっと庭の真ん中で佇む俺に気が付いた。 「そこにおったか」 俺と視線が交わると、さも満足げに笑った。 以前と姿形が違うが、俺だとわかったらしい。 向かい合う男達は薄い俺を見つけることも出来ず、ただただ恰幅の良い男の言動に困惑していた。 「約束だ。俺の散り際、心して見よ!」 そう叫ぶと同時に正面の男に切りかかる。 正面の男はその渾身の一振りを受け流し損ね、顔を切った。 そこに更にもう一振り。 その時。 背後から、違う男の刀が恰幅の良い男の身体を貫いた。 今度こそ、致命傷だった。 「行くぞ」 「待ってください。庭に誰か居るような口振りでしたが…」 そう言って雨足が強くなった庭に目を凝らす男達の間を縫って、恰幅の良い男の傍まで行った。 男達に袖が少々当たったが、気付く事はないだろう。 「…だれもいやしねぇよ。大丈夫だ」 「家の者に気付かれたやもしれん。急いでずらかるぞ!」 四人の男達は俺に見向きもせずその場を後にした。  
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