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座敷には、他に二つ死体が転がっていた。
恰幅の良い男を見下ろすと、ひゅー、ひゅー、と頼りない音が口から漏れていた。
事切れるのも直だろう。
しかし俺へと焦点が合うと目に力が宿った。
「……こぞう…久しい…な……」
俺は軽く頷いた。
「……これが、俺の、…最、期だ……」
言葉と共に、口から血も溢れてくる。
激しい雨の音と、ごぽごぽと込み上げる液体の音に邪魔されて、言葉が上手く聞こえない。
「…楽に逝きたいか」
そう尋ねれば、恰幅の良い男は目を細めた。
このままで、という事だろう。
そのまま視線を横に滑らせ、傍で倒れている女の死体を見遣った。
「…後、悔は……ない……」
その顔が酷く穏やかで、首を傾げる。
人間の感情は、やはり理解出来ない。
「……もう…良いぞ………
最期に…お前、と……会えて、よか」
ごぽり。
背を反らせ目を見開き、大量の血を吐き出すと恰幅の良い男は動かなくなった。
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