繊月の章

8/12

431人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
  初めて会ったのはこの男がまだ青っちょろい餓鬼の頃だった。 俺が憑いていた家に養子としてやってきた。 見た目も雰囲気も、餓鬼大将そのものという印象だった。 「何だお前は。珍妙な奴だな」 その言葉に棘はなく、ただ単に面白い物を見たように愉しげに笑った。 笑いながら「食え」と言って渡された蛙を口に入れた時、男は慌てて俺の口に指を突っ込んだ。 「たわけ!何をしておる!あやかしは冗談も通じんのか…!」 顔面蒼白になりながら蛙を取り戻した男は、そうやって俺を怒鳴った。 金遣いが荒いくせに俺の力を頼ろうとしない。 その理由を聞いた時は耳を疑った。 「そんな金、気味が悪いだろう。使ったら祟られそうだ」 こんな豪胆な荒くれ者が祟りが恐いとは。 それもあってその男と益のやり取りはなかったが、良く俺の座敷を訪れては下手くそな絵を描いては見せた。 「見せただけだ。お前にやった訳ではない」 そう付け加えながら楽しそうに筆を滑らす男の姿は、月日を経て恰幅が良くなっても子供以外の何者にも見えなかった。  
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

431人が本棚に入れています
本棚に追加