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「悪さが過ぎた。入獄するやもしれぬ」
そう言っていた男は、ある日俺に別れを告げに来た。
投獄されるのかと思いきや、京へいくのだと、そう言った。
「小僧、お主も来んか」
「いかん。俺はお前ではなく、この家に厄介になっているんだ」
「ふん。堅苦しい奴め」
やはり男は可笑しそうに笑った。
「俺の力を欲しているのか?」
男にそう聞けば「馬鹿にするな!」と怒鳴って手に持っていた鉄扇を畳に叩きつけた。
「金の工面など自分でどうにでも出来る。お前が気に入っておったから誘ってみたが、もういい」
「気に入る?俺を?」
気は確かか、と探るように顔を見たが、憤慨の感情以外は読めない。
人間とは全く難儀な生き物だ。
「…あまり無茶をするな。早死にするぞ」
俺がそう呟いたことが意外だったのだろう。
男は驚いたような顔で俺をしげしげと眺めた。
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