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「お主でもそんな人間臭い事を言えるのだな」
そう言うと男は立ち上がり、俺を見下ろした。
「こんな所に居てもつまらんだろう。お前もいつか京へ来い。面白いものを見せてやる」
「面白いものとは?」
「人間の生き様よ」
低く良く通る声が座敷を震わせた。
一瞬言葉を無くして男を見上げるが、俺は人間など腐るほど見てきた。
「…生き様など、興味は無い」
「ならば死に様を見せてやる」
この男は何を言っているのだ。
その思いを込めて男を見れば、その目には俺にない炎が宿っていた。
「死に様を見に来い。最期に心を持たぬあやかしに置き土産をやろう」
人間とは、全く良くわからん。
が、何故か俺は素直に頷いていた。
男が発って直ぐだった。
俺は、その家を離れた。
その家がその後どうなったのかは知らん。
しかし家が無くなろうと、あの男はやはり笑い飛ばすのだろう。
稀に見る豪傑。
豪胆にして豪快。
そんな男の死に様を見に行こうと思った。
男が事切れた時。
仄かに不思議な感情が湧き上がったが、それが何かを探る内にすっかり消えてしまった。
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