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「わぁっ!もう焦げてきた!」
「火が強すぎるんだろう」
少女は慌てて餅を皿に移し、まだ熱くなっていない鉄瓶を降ろすと金網を素手で触った。
「あちっ!」
「触る馬鹿があるか」
少女は涙目で俺を睨むと炭に軽く灰をかけ、今度は火箸で金網を戻した。
しかし些か火を弱めすぎたようだ。
餅は暫く焼けそうにない。
「…ねぇ、お餅が焼けるまで」
やはりそう来たか。
足を崩し、脇息にもたれ掛かるように座って少女に目をやれば、少女はしゃんと背筋を伸ばして聞く姿勢に入った。
だが、昔話をするつもりではない。
「…記憶を振り返れば、あの男の置き土産がなんなのかわかると言ったな」
少女は力強く頷く。
「何故そう言える?」
「置き土産をくれたのは、きっとその人だけじゃないよ。当の本人も知らないうちに、わらしの中に何かを遺してるはず」
「訳の分からんことを言うな。遺そうと思わん奴に遺せるわけがあるまいに」
鼻で笑えば、少女の目に更に力が入ったように見えた。
「わらし、賭をしよう」
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