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「…賭?」
眉を顰めて問い返せば、少女は真っ直ぐに俺の目を射抜いた。
「そう、賭。
今日の話が終わった時、わらしは人間臭い感情を抱くよ」
「感情?俺が?」
何を馬鹿げた事を。
目を細めて少女を見遣れば、少女も俺から目を離す事なく更に口を開く。
「今まで自分に起こった出来事を思い返した事なんてないんでしょ?普通はね、それを思い返して感情にするんだよ。
…わらしがどんな感情を抱くかはわからないけど、絶対、何かを感じるはずだよ」
「……」
絶対、と言ってのける少女と、瞬きもせずに向かい合う。
…確信に満ちた少女の瞳はいつまでも怯まない。
頬杖をつくとその視線を受けながらゆっくりと目を閉じた。
何故か、少女のその表情を歪ませる話がしたいと思った。
僅かに記憶の隅にあった欠片を掬う。
首に押し当てられた鉄が、皮を圧し破り、肉を滑り、骨を軋ませながら裁つ。
――そんな思い出話を拾ってやろう。
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