眉月の章

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  恰幅の良い男の話からそう時は経っていなかったと思う。 京を離れ江戸へ行った。 約束があったからだ。 …その約束とこの話は全く関係がないから良しとして。 その時、江戸へ用事で来ていた高利貸しの男に憑いた。 きっかけなど忘れたが。 男はみるみるうちに大金持ちになった。 そのうち、男は自分の内にいる俺に気が付いた。 こうして勝手に人間に憑く事は度々あったが、ここまで気付くのが遅い奴は初めてだった。 「なんだおめぇは。狐か?やい、俺ン中から出て来い」 包丁を自分の胸に押し当て、声を震わせる男の目の前に形を成して姿を現せば、男は包丁を放り投げて飛び上がった。 「だ、誰だ!どこから入って来やがった、この餓鬼!」 出て来いと言った本人がこの調子では困る。 狐の方が良かったのか。 「どうも気味が悪ぃなぁ。おい、もう俺ン中に入るなよ。そのままでいろよ」 やっと状況を理解した高利貸しの男は俺と間を取りつつ胡座をかいて座った。 「しかし、座敷童が我が家に憑くとは…」 男は厭らしく笑いながら呟いたが、俺が憑いているのは家ではなくこの男だ。 まぁどうでもいいだろう。  
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