431人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「さあ、今日も稼がせろよ!」
男はそう言うと俺を店の前に立たせた。
男は座敷童というものを勘違いをしていた。
わからぬなら身体の内に納めておけばよかったのだ。
そろそろ座敷で寝て過ごす生活が欲しいと思っていた頃、ひとりの女が金を借りに訪れた。
何回か来たことのある女だったが、これまで高利貸しの男はこの女には金を貸さなかった。
だがこの日の男は違った。
女の肩を撫でながらその耳元に顔を寄せる。
「どうだ、どこかで一泊しないか?そしたらまぁ、金を考えてやらんでもない」
周りが見えぬ、愚かな奴め。
俺はその日に男の元を離れた。
江戸へ戻って暫くした頃だった。
分厚い雲から雪が舞う季節。
処刑場の前を通りかかった俺の耳に、僅かに女の声が聞こえた。
「どうかしたかい?」
隣を歩いていた連れの男が黒の外套を翻して俺の顔を覗き込む。
その男に断りを入れ、自分の羽織を預けると処刑場へ足を踏み入れた。
処刑場は厳粛な雰囲気など皆無で、異様な程の騒ぎだった。
最初のコメントを投稿しよう!