眉月の章

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  「押さえろ!」 「動くな!観念しろ!」 処刑場に響く怒声は焦りを色濃く含んでいた。 男達の下で暴れ回る山吹色の着物を着た女は… やはり、いつか見たあの女だ。 高利貸しの所に金を借りに来た、あの女。 「後生です!あの人に会わせて!」 「ならん!動くな!」 「お願い!一目でいいんです!お願い!」 斬首刑。 しかし今まさに首を切られんとしている女は激しく暴れ回り、死ぬことを拒んでいた。 一人の男が足を押さえ、もう一人の男が背後から両腕を固める。 隙を見て執行人が刀を振り上げるが、女は身体を勢い良く伸ばして地べたに倒れ込んだ。 「待って…!あ、の人を、この目に、焼き付けてから…!」 髪を振り乱し、虫のように這いずり回る女を周りの者は白眼視していた。 人の間をすり抜けて、揉み合う三人の前に立った。 女の顔は涙と鼻水に土が付いて砂まみれだった。 地面を掻く爪からは血が滲み出る。 髪も襟も乱れ、尚も必死に刑から逃れようとするその形相は鬼女そのもの。 二人の男も体重をかけて押さえてはいるが、その気迫に完全に呑まれていた。  
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