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しゃがみ込んで、焦点の合わぬ女の目を覗き込んだ。
…最期に一目会いたいというのは、恋仲の事だろうか。
ほう。
あの後、高利貸しの男を殺したか。
…そのまま、捕らえられたか。
執行人の男が躊躇ったまま刀を振り下ろした。
衝撃に合わせたかのように、女の目がぐるりと揺れる。
「ギィ─────!」
中途半端に振られたそれは、女の後頭部に当たった。
切られた髪がばさりと解け、その部分から血が噴き出る。
押さえていた男達は血をかぶり腰を抜かしてへたり込んだ。
女は地面に血で絵を描きながら声にならない声を上げてのたうち回る。
その姿は毒を喰らった野良犬のようだった。
「まだだ!ちゃんと押さえろ!」
腰が抜けた男達は這いながら女を捕まえ、その身体をうつ伏せ寝にさせた。
「会いたい…会いたいぃ…」
女は虚ろな目をしたまま恋仲の名を口にした。
その虚ろな目に、俺が映る。
女は一瞬驚いたように目を開いた。
「俺が見えるか」
女は頷く。
「あの人に…会わせて…」
女は泣きながら懇願したが、もう刻もなければ手の施しようもない。
「無理だ。諦めろ」
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