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「…今はこんな生りだけどね、主人が居た頃は、私は裁縫をしてお金を貰っていたんだよ。女だてらに仕事の真似事をして、なんてよく主人に叱られたもんさ。…でもね、腕が良かったから頼まれるんだよ」
ふふ、と笑いが漏れる。
過去の栄華を思い出して酔いしれているのか、女は天井を見ながら目を細めた。
「…また……そんな事をして暮らせていければどんなに幸せなことか……」
「仕事をして暮らしたいの?」
天井から童子に目をやると、暗い部屋でも目立つ大きな瞳が女を見据えていた。
「…もう、諦めた夢だよ……」
「どうして?」
童子は瞬きもせず、女を見つめる。
「どうしてって…旦那が居なけりゃあ仕事の伝手もないし、何より道具も取られちまったからね」
「どうして旦那さんと道具がないと仕事ができないの?」
尚もジッと見続ける瞳に、女は徐々に気味が悪くなってきて視線を逸らした。
「そういうもんなんだよ。いいから、もう寝な。起きてると腹が空くよ」
「お金があればいいの?」
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