序章

6/23

431人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
  「…今はこんな生りだけどね、主人が居た頃は、私は裁縫をしてお金を貰っていたんだよ。女だてらに仕事の真似事をして、なんてよく主人に叱られたもんさ。…でもね、腕が良かったから頼まれるんだよ」 ふふ、と笑いが漏れる。 過去の栄華を思い出して酔いしれているのか、女は天井を見ながら目を細めた。 「…また……そんな事をして暮らせていければどんなに幸せなことか……」 「仕事をして暮らしたいの?」 天井から童子に目をやると、暗い部屋でも目立つ大きな瞳が女を見据えていた。 「…もう、諦めた夢だよ……」 「どうして?」 童子は瞬きもせず、女を見つめる。 「どうしてって…旦那が居なけりゃあ仕事の伝手もないし、何より道具も取られちまったからね」 「どうして旦那さんと道具がないと仕事ができないの?」 尚もジッと見続ける瞳に、女は徐々に気味が悪くなってきて視線を逸らした。 「そういうもんなんだよ。いいから、もう寝な。起きてると腹が空くよ」 「お金があればいいの?」  
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

431人が本棚に入れています
本棚に追加