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「え…」
フッと息を吹きかけると、張り付いていた灰が宙を舞う。
そこに現れたまっさらな掌に少女は息を呑んだ。
「俺は、何も感じない」
少女が弾かれたように顔を上げた。
…その顔は、過去に何度も見たことがある。
何となく目を逸らした。
「最期の瞬間を請け負った事はほんの些細な気紛れだ。罪悪感、というものは認める。俺が原因なのは確かだったからな。だが」
叩き落とされた炭を拾い上げ、火鉢に戻した。
「そこに特別な感情はない。都合良く自分の考えを押しつけるな」
「わらし」
「さて。賭は俺の勝ちのようだ」
少女の顔が強張り、口をきつく結んで俺を見上げる。
「賭けるものを決めていなかったな。では言うことを聞いてもらう事にしよう」
「わらし…」
「お前のお喋りは耳障りだ。もう俺に顔を見せるな」
少女の目が大きく見開かれ、見る見るうちに涙が溜まっていく。
「言っただろう。
話はこれで終わりだと」
それ、終わりだ。
仄暗い座敷に皮の焦げた匂いが漂う。
少女の衣擦れと襖を閉める音だけがいつまでも耳に残った。
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