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「やあ。君が座敷童だね?いや、美しいな」
真っ赤に燃え盛る町が見下ろせる高台に立っていれば、およそこの場には似つかわしくないほどの軽やかな声が聞こえた。
振り向けば、常盤色の着流しを身に纏った男が夜の夏草を踏み締めながらこちらに向かって歩いて来る。
「美しく見えるか。歪んだ奴め」
そのまま町に目をやると、男は可笑しそうに笑った。
「私が言ったのは火じゃない。君の事だよ」
そのまま隣に並ぶ男と燃える町を眺めた。
「うわ、こんなに離れていても熱いな。凄い熱風だ」
「そうか」
「ここから見たんじゃわからないけど、近くで見ればてんてこ舞いなんだろう」
「そうだろうな」
「君が火を着けたのかい?」
「……そうかもしれん」
そう答えると、けぶる空の下、男はまた愉快そうに笑った。
「何故俺の事を知っている」
「友人に聞いていたんだ。女廊屋に座敷童がいると」
「それで何故俺がその座敷童だと思う」
「吉原の遊女が着物も髪も乱さずこんなところで火を眺めるかい」
しゃらん、と挿してある簪が音をたて揺れた。
そうか。
気にしなかったが、この場にこの出で立ちは不自然だったか。
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