上弦の月の章

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  火の粉が煽られ、夏の夜の空に赤い龍が渦を巻く。 昼間のような明るさに江戸の町が喰われていく。 「一緒に来ないか?」 橙の明かりに照らされた男の顔は笑って見えた。 「どちらを所望している」 「遊女に興味はないよ。座敷童である君に力を借りたくてね」 「…女廊屋のなれ果てを眼下に見ておいて冨を欲するか」 「そうだな。欲しいものは欲しい」 笑ってはいたが、男の目には一切の迷いが無い。 入れ物にしていた女から抜け出ると、男は俺と倒れた女を交互に見て感心したように息を吐いた。 「ほう、それが元来の姿かい」 「元来など知らん。成りやすい形に成っただけだ」 「取り憑くだけでなく自由に姿を創れるのか?それは便利だな」 男は俺の全身を隈なく見ると満足げに頷いた。 欲しいものは欲しい。 そう言っていた男に散々歩かされ、いくつかの関所を越え、山奥の村に連れて来られたが、道中、自身への冨を欲する事は無かった。 掴み所がない、と言うより扱いにくい男のような気がした。  
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