431人が本棚に入れています
本棚に追加
小さな神社へ招かれると、中には大勢のみすぼらしい男達がひしめき合っていた。
男達は男に付き添う俺を見ると眉を寄せたが、話が始まると直ぐに気にもしなくなった。
「ふざけんな、奴ら、幕命だとぬかしやがる…!」
「庄屋も組頭も腰抜けばかりだ!」
徴税が、とか、免許状が、とか。
何やらそんな話をしていたが興味も無い為ずっと外を眺めていた。
男も話に加わる事無く、ただ男達の話に耳を傾けていた。
「今一度、傘連判を作る。あんた、頼むよ」
皆が興奮して口々に不平不満を漏らす中、統率者と思われる男が落ち着いた声で男に言った。
「藩主が不在の藩邸に提出しても取り合ってもらえん。ならば、江戸の藩主様に直接提出するより他無い」
男達のぎらついた目が妖しく光る。
「…連判状を書いてくれ!明日にでも江戸へ発つ!」
統率者が声高らかにそう言えば、その意見に乗るように全員が立ち上がった。
男は静かにその様子を眺め、ゆっくり頷くと風呂敷を解いて硯箱を開けた。
古ぼけた神社に響く墨を磨る音は、怒りで興奮した男達を鎮める心音のように聞こえた。
男が筆を滑らす様を、男達が固唾を飲んで見守る。
俺はそれを遠くから眺めていた。
それが終わり宿に向かう頃にはすっかり陽が傾いていた。
最初のコメントを投稿しよう!