上弦の月の章

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  小さな神社へ招かれると、中には大勢のみすぼらしい男達がひしめき合っていた。 男達は男に付き添う俺を見ると眉を寄せたが、話が始まると直ぐに気にもしなくなった。 「ふざけんな、奴ら、幕命だとぬかしやがる…!」 「庄屋も組頭も腰抜けばかりだ!」 徴税が、とか、免許状が、とか。 何やらそんな話をしていたが興味も無い為ずっと外を眺めていた。 男も話に加わる事無く、ただ男達の話に耳を傾けていた。 「今一度、傘連判を作る。あんた、頼むよ」 皆が興奮して口々に不平不満を漏らす中、統率者と思われる男が落ち着いた声で男に言った。 「藩主が不在の藩邸に提出しても取り合ってもらえん。ならば、江戸の藩主様に直接提出するより他無い」 男達のぎらついた目が妖しく光る。 「…連判状を書いてくれ!明日にでも江戸へ発つ!」 統率者が声高らかにそう言えば、その意見に乗るように全員が立ち上がった。 男は静かにその様子を眺め、ゆっくり頷くと風呂敷を解いて硯箱を開けた。 古ぼけた神社に響く墨を磨る音は、怒りで興奮した男達を鎮める心音のように聞こえた。 男が筆を滑らす様を、男達が固唾を飲んで見守る。 俺はそれを遠くから眺めていた。 それが終わり宿に向かう頃にはすっかり陽が傾いていた。  
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