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誰が読むんだ、こんなもの。
生きて、その口で伝えれば良いだろうが。
それでも無我夢中で首を振る。
鬼気迫る、とはこういうことを言うんだろうか。
『人間が生きるのに必死になる様は、君の目には滑稽に移るかい?』
何時だったか、男に聞かれた言葉を思い出した。
滑稽、とは違う。
ただわからん。
今、頭の中を占めるのは、男が俺を見もしない事だ。
此処に俺が居るだろう。
何故、此方を見ん。
何故、俺を頼らん。
妙な感覚が腹の中に渦巻いた。
…人間の考える事は、やはり俺には理解できん。
結局、其処へ行き着く。
「ぐぅ…っ!」
呻き声と共に、男の身体が横に倒れた。
横倒しのまま荒い呼吸を繰り返す。
「終わったか」
そう聞いても反応はないが、先程のような気迫は感じられんから終わったのだろう。
「誰に読ませるつもりだ」
男の目が、ゆっくりと俺を捉えた。
その精気が抜け落ちたような…だけども穏やかな目に、眉を顰めた。
「………藩主、さまに……だが、もう、いい……充分だ………」
「丁度俺も藩主の元へ行くところだった」
そう言えば、男は目を見開いてから僅かに笑う。
「……君は、……嘘が、下手だな………」
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