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「嘘ではない。次に憑く人間を探さねばならんからな。今度は強欲な奴が良いと思っていた」
書いたばかりの紙を拾うと、まだ乾いていないそれをさっさと丸めた。
「俺はもう行く。お前が俺を使わんのなら、もうお前に用は無い」
背を向けると、背後から小さな笑い声が聞こえた。
「……君は……本当に人間のようだなァ……」
「何だと?」
振り向けば、男は先程の態勢のまま此方を見ている。
「…あぁ……どこからどう見ても人間だとも………」
「馬鹿な事を言うな」
「……藩主様を、頼むよ」
「そんなものは聞いてやらん。どうするかは俺の自由だ」
「……共に生きてやれなくて、……すまない………」
最後の言葉に首を傾げる。
此奴は何を言っている。
何もかもが理解出来ん。
そう言ってやろうにも、何故か口が開かん。
「……私ではなかった、というだけだ……。……大丈夫……ちゃんと、見つかるさ。……君を、何より大切に思う人間が、いつか、必ず………」
「…………」
一体、何の話だというのだ。
此処まで理解出来んと、もはや考えたくも無くなる。
もういい。
男に背を向け歩き出すと、最期に小さな声が耳に飛び込んで来た。
「……短い間だったが……本当に、楽しかったよ………」
その言葉は、暗い牢獄の壁に吸い込まれていった。
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