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女の色褪せてからからになった日々に変化が訪れたのは、その翌日。
童子に食べさせる物を手に入れるため、雪を踏みしめ鍋を持って民家を回っていたところを背後から声を掛けられた。
「なんと…!貴女はもしや」
振り向くと、立派な着物に身を包んだ男が立派な馬の背に跨がったまま、驚愕の表情で女を見下ろしていた。
ひなびた村には不釣り合いの男だ。
腰に携えた二本の刀の上等なしつらえが位の高さを見せ付ける。
「覚えていらっしゃいませんか。昔、御主人に世話になっていた者です」
そう言われて初めて顔を見る。
日に焼けて血色も良く自信に満ち溢れていて、物乞いをして生きる女には眩しかった。
しかし、その顔は見覚えがあった。
「……まあ、お元気でしたか。ご立派になられて」
「全ては御主人の御陰です」
男は主人の下で働いていた。
主人が生前の頃は、他の仲間と共に何度か食事に呼んで酒を振る舞った事がある。
「ずっと貴女を探しておりました」
「私を?何故?」
男はゆっくりと馬から下りる。
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