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「女を呼べ」
「は…?」
「聞こえんか。以前来ていた女だ」
気怠い身体を起こしながら男を見れば、男は目を丸くして俺を見ていた。
もう来るなと言った人間を呼ぶんだ。
驚きもするだろう。
「聞きたい事があるんだ。…良いから、呼べ」
パタン、と襖が閉まると静寂が訪れる。
傍にあった脇息を引き寄せ、肘を置いた。
もうずっと忘れていた背中を思い起こせば、不思議と墨の匂いや心地良い音に包まれている気がした。
腹の中にじんわりとした熱が溜まる。
当時、その中で昼寝ばかりしていた所為だろう。
それらが眠りを誘う。
悪くない気分だ。
…このまま一眠りしよう。
肩までの髪の少女が来るまで、今ひととき…
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