十日夜の章

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  「呆れなど常々感じている。だからこそ残った感情なのかもしれん」 摘み上げた干菓子は椿を象ったものだった。 砂糖が行灯の灯りに煌めいて花に積もる雪を思わせる。 「好きなの?椿」 干菓子を食いもせず見ていた所為か、少女が笑いながら俺に声を掛けた。 「…ひとつ思い出した」 「何を!?」 「くだらん事だ。聞かん方が良い」 目を輝かせて身を乗り出していた少女だが、そう言うと諦めたように腰を下ろした。 しかし少女はどこか嬉しそうに口元を綻ばせている。 話しはしなくても、俺が過去を思い出す事を喜んでいるようだ。 そんな横顔から手元の干菓子に目を落とし、それをそっと口に含んだ。 とろりと溶けて口に広がる。 ――頭の中は、真っ赤な首と、一面の雪。  
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