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「呆れなど常々感じている。だからこそ残った感情なのかもしれん」
摘み上げた干菓子は椿を象ったものだった。
砂糖が行灯の灯りに煌めいて花に積もる雪を思わせる。
「好きなの?椿」
干菓子を食いもせず見ていた所為か、少女が笑いながら俺に声を掛けた。
「…ひとつ思い出した」
「何を!?」
「くだらん事だ。聞かん方が良い」
目を輝かせて身を乗り出していた少女だが、そう言うと諦めたように腰を下ろした。
しかし少女はどこか嬉しそうに口元を綻ばせている。
話しはしなくても、俺が過去を思い出す事を喜んでいるようだ。
そんな横顔から手元の干菓子に目を落とし、それをそっと口に含んだ。
とろりと溶けて口に広がる。
――頭の中は、真っ赤な首と、一面の雪。
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