十日夜の章

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  男を見れば、それなりに良い身形をしていた。 面長の顔には厳しさと教養が滲み、やつれた頬が凄みを増して見せる。 乱れた髷が揺れた。 「…去るが良い。妖と言えど、子供に用は無い」 「鬼だとでも思ったか」 「…何だって良い。あの男を地獄に落としてくれるのなら…修羅だろうが羅刹だろうがこの身を売ろう」 「ならば、身を売ってみるか」 俺は、今その男が強く想っている一人の男の姿を象ってみせた。 男は瞠目し、口を掌で覆う。 「……しょう、………!」 俺が象るこの男の名だろうか。 呼びきる前に涙が零れ落ち、声にならなくなった。 「…私はどうしたら良いんだ…!」 ぶるぶると震える手で俺の着物の袖を握り締め、自身の額に押し当てる。 「死人に口無し。仇打ちするも後を追うも、全ては貴様次第」 男が濡れた眼を俺に向ける。 俺の姿の所為だろう。 その目には本来持っているであろう威厳が、僅かに戻っていた。 「…私の仕事は、あれの教え子達を見守る事だ。あれが遺した沢山の芽が実を結ぶまで、…私は死ねぬ」 死ねぬ、と言う時点で俺がどういった類の妖かわかっていたのかもしれない。 狂いかけていた割に頭の良い男だ。  
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